少年は無垢なる右手で命を奪い、少女は機械の左手で敵を討つ。木村聡『ボーダーワールド 碧落のTAO』1巻+αの感想など

ブログも結局気が向いた時しか書いていませんが、ポータブックさんは何かと使っています。マシンパワーはないけど、少しだけ作業したい時にはぴったりですね。あと、長文書くには全く困りません。出張用との謳い文句でありながら、専ら自宅で使用しています。
今度Windows10のcreators Updateが適用とのことだけど、普通に使ってたらHDDの容量が明らかに足りないのでそのままでお願いしたいんですが……。

さて、先日仕事が嫌になったので午後から無理矢理休みをもらい、ぶらぶらお店を巡ってたんですが、漫画専門の書店でいい作品に出会えました。
ネット上でレビューや感想などを探してみたのですが、あまり見つからなくて寂しかったので書くことにしました。一番乗りだぜ、やったね!
ウルトラジャンプ連載中、木村聡先生作『ボーダーワールド 碧落のTAO』
前半部はネタバレなしのレビュー的な感想、
後半部はUJ本誌最新号掲載分まで含めたネタバレありの感想です。
ご注意の上、お読みいただければ幸いです。
(※あんまりにも好みだったので紙の書籍と電子書籍、1巻より後の話が掲載されているUJ買いました)
(※貢ぎたい応援がしたい)

 

*ネタバレなしのあらすじと感想

あらすじ(1話)
人類の半数以上がバーチャル都市・ZONEへと『移住』した時代。
そこは、あらゆる労苦や欲求から解放され、命脅かされることもない、永遠の世界。
肉体を捨て、永遠の時間を手に入れた人々は研究などの知的活動に勤しんでいた。
地球から移住した人々とは異なり、彼らの遺伝子情報を掛け合わせて生み出された、完全なるデータ生命体・第2世代。主人公タオは今はまだ数少ない第2世代の一人だ。
ある日、タオはとある任務を与えられる。
それは、まだ実世界=地球上で生きている人々を『救出』することだった。
(それを、彼らが望むかどうかは全くの別の問題だが、彼が知る由もない)

初めての任務を順調にこなしていくタオ。
初めての実世界で、一人の少女と出会う。
「あなたに この風を感じられる?」
その言葉の意味を、タオは知らない。

***

公式サイトかAmazonなどで書影を見ていただければ分かりますが、爽やかに見えてその実残酷なことをしてくれている少年が、我らが主人公のタオくんです。
1巻の内容がおおよそ凝縮されているステキな素敵な表紙です。
書店だと「君に触れたい」というますます素敵なコピーのついた帯が付いていて騙されること必至。
私は購入してしばらく気づきませんでした。
タオくんがただ爽やかに地上に降り立っている姿とばかり思っていたんだ。
しかも右手にもロクでもない代物を持っていやがる。
帯のコピーも含め、1巻を読み終えた後に改めて見ると実に合点がいく。

表紙を開いての中身。
マンガとしての絵はあまりクセなく読みやすく、かつ月刊連載とはいえ細部まで描き込まれていて舌を巻きます。
デジタル作画ってすげー! 技術の進歩ってすげー!
(私がそこまで漫画を読まないのでそう思うのかもしれません。
 そして少し詰め込みすぎのきらいはあるにはある)
上記のあらすじではネタバレを極力避けたので、ここまでの文章では想像がつかないかもしれませんが、内容としては血生臭い描写がそれなりにあります。あと少しだけお色気というかそういう描写もあるんだけど、それは仮にも青年誌連載、そしてこれからの物語で(というよりはタオにとって)重要なファクターとなり得るものです。つまり無駄な描写ではない。ちなみに今のところ女性キャラクターはおよそこぼれんばかりの巨乳です(幼女を除く)。でもこれ、巨乳じゃなければ成立しないとも思う……。
また、ZONEの人々(エーテル人)は地上での任務の際に肉体の代わりにガイストというロボットを使うのですが、これがカッコいい、そして恐ろしくもある。
しかし、エーテル人にとってはこれが肉体なので、このロボットが飛び跳ねて楽しんだりエロ本読んで喜んだりなどシュールな場面もあり、そしてロボットですからよく壊れる(お約束)。
無機質に高速のアクションを繰り出すガイストが見せる案外豊かな表情にもご注目。

そして何より惹かれたのが、世界観。
私があまり漫画なりアニメなりの作品に触れておらず、知識や見識が浅いところので、素っ頓狂な意見かもしれませんが、
肉体を捨て、自身をデータ化して永遠を手に入れる。そして、データ化した遺伝子を掛け合わせて、子どもを作る、その子どもは肉体を持たないデータだけの存在である(正真正銘の純粋なエーテル人)。
この基幹の設定に脳髄が滾りました。こういうSFは大の好み。
肉体の感覚を知らない、そしてZONEは苦痛や欲求から解放された世界。
つまり、第二世代であるタオたちは痛みや苦しみを知らない。
ゆえに、肉体にこだわる地上人を理解できない。
徹底的にすれ違い、それでも近づきたいと何度も挑んでいくタオ。
その姿はまるで物知らぬ子どものよう――。

夢あふれるZONE、廃墟と化した地上、救いの手を伸ばすエーテル人に、抗い続ける地上人。
それぞれの思惑さえ平行線のまま、出会う少年と少女、そして2つの世界の物語。
いろんな要素が詰め込まれていて、その分だけ何かを感じ、何かを考え、そして確実に面白い作品です。
書店で見かけたら、是非お手にとってくださいませ。
あるいは電子書籍版も販売されているので、今すぐにでも!
そして、作者様の想定通りの形で物語が展開されますように。

(ところで、ここまで何回「肉体」という言葉を使っただろうか)

 

 

 

*ここから下はネタバレありの感想です。
1巻の内容に加え、ウルトラジャンプ2017年8月号までの内容を含みます。

 

 

 

 

*ネタバレあり感想(ぶっちゃけ話と考察含む、語調も変わります)
上のネタバレなし感想は嘘とまではいかなくとも、エーテル人の言う救出=ただの地上人殺戮を伏せていたので、なかなか大変でした。
(私が1話を読んで衝撃を受けたのがそこだったので伏せたのです)
その甲斐があったと信じたいネタバレありの感想+考察です。

 

●ZONEからの使者とスワンプマン
エーテル人が殺戮する理由)
エーテル人が地上人を救出する際、即ち自らと同じデータ生命体として迎え入れる際、必ず対象の息の根を止めます。
1話のタオによる初めての『救出』シーンが今のところ最も分かりやすい描写なのですが、

 ① 相手にZONEに来るよう呼びかける
 ② 説得が通じない場合、対象の動きを封じる(対象はここで致命傷を負う)
 ③ ガイストの手で対象の頭部を掴み、脳内をスキャン、同時にDNAを採取
 ④ スキャン後、対象の肉体を破壊し確実に殺害

およそこのような手順と思われます。
ここで気になったのが、対象のデータ化と殺害はそれぞれ別のプロセスということ。
2話のナナ(犬に水をあげようとしていた幼女)を手にかけようとした時、
ガイストの掌からは針のようなものが伸びていました。これはスキャン装置の一部と思われます。
しかし、脳に直接針を刺してもそう簡単に死にはしないはず(重篤な後遺症が残る可能性は十分あるにしても)。
エーテル人が同胞を増やすための手段として、地上人をデータ化するにしても、殺害までする必要性はない。
ならばなぜ殺すのか。
最大の理由は地上人そのものを根絶するためでしょう。
過去にZONEは一度、地上人が撃った核ミサイルで堕とされています。
この時点でエーテル人と地上人は決裂し、戦争状態に突入したと思われます。
永遠の命を手に入れたエーテル人が、自らを脅かすほぼ唯一の相手を思いやる必要なんてないのです。

第二の理由は理由としてはやや弱いです。
作者様がこういう面まで踏み込むか分からないですし、私は邪推が大好きなので、その域を出ない話。
スワンプマンという思考実験をご存じでしょうか。
詳細はWikipedia等をご覧いただくとして、簡単に言えばこんな話。


「自分の死と同時にクローンが誕生し、死んだ自らの代わりに生活を始めた。
このクローンは死の直前までの自らの記憶も保持しており、オリジナルの死後、何の支障も無く生活を続けていく」


自分の死と同時に生まれたクローンは自分自身と言えるのか、それとも自分の形と記憶を持った別人なのか、自分は生きているのか。
ところで、作中ではタオが救出した地上人がZONEで目覚め、先にZONEに来ていた家族と再会するという場面があります。
めでたしめでたし、僕たちはいいことをしてるね! って感じでまとまりますし、そもそも生まれついてのデータ生命体であるタオたちは考えもしないとは思うのですが、
地上で死んでその意識、あるいは心がそのままZONEに移行するという保証はない。
むしろ、DNAと思考データを元に電脳世界で再現・シミュレートされているだけの別人である可能性がある。つまり、スワンプマン。
データ化だけならば殺害の必要はないと仮定すれば、データ採取時にあえて殺害するのはこの矛盾を解消するためではないか。
そして物語が進行すれば、ZONEの住人であるのに肉体が生きたままの人物が登場するのではないか……と思ったら、その逆、タオが分裂した(UJ2017年7月号)
元地上人のエーテル人はスワンプマンと同等の存在だけど、ZONE生まれのタオは、Ⅵに受肉させられた方がむしろスワンプマン。
恐らくこれからの視点は受肉した方のタオだと思いますが
(サブタイトルが『碧落のTAO』なので。
碧落=遙か遠いところの意、つまりZONEと実世界の境界を越えたことの意かと)
いつかZONE側にいるタオと実世界のタオが出会う展開になった時、何が起こるのかが今から楽しみ。


余談。
各話のタイトルは「ZONEのタオ/実世界のタオ」の状況や心境をそれぞれ表しているのではないか、という予想。
1話「FACE/TOFACE」(ヒルダとの出会い?)
2話「AGAIN/REJECTION」(再び/拒絶、あの子の名前が知りたい!けど拒絶される)
3話「AGAIN/REJECTION2」(同上)
4話「WONDERING/GOHST」(不思議/亡霊、ヒルダがどうしても気になる、けれど相手からすればただの敵)
5話「Re/RELIEVE」(解放、ここの話のタオが実世界での肉体を得て、ZONEにいるタオは別個体になる)
6話「Z/Z」(混乱しています、ということか?)
7話「CONTINUE/TIMEOVER」(続けよう/時間切れ、ZONEのタオはそのまま生活を続ける)
8話「---/THINGS HIDDEN」(ZONEのタオには出番がないので表記なし、隠されたもの)
(ここらへんは勘ぐりすぎかも」)

●ボーイミーツガールか、アダムとイヴか
電脳世界で生まれたタオが地上で暮らすヒルダと出会い、展開していく物語。
……と書くと甘酸っぱいボーイミーツガールに聞こえるけど、実際は殺し合い。
この二人の関係も、他の作品で全く見たことがない特異性があるわけではないけれど、何となく面白いなあと思いながら見ています。
君のことが知りたいと言いつつ、タオは殺しにかかるし、ヒルダは毎回返り討ちにする。
つよいおんなのこだいすきです。
「殺し愛」なんて言葉が思い浮かびましたけど、愛には当然至らず、命の奪い合いはどちらかと言えばコミュニケーションの手段。
ヒルダから見れば生死が掛かっているのだから溜まったもんじゃないだろうけれど。
ネタバレなしの感想にも書きましたが、自分にとって分からないモノ・コトをストレートにぶつけていくタオの姿は、まるで子どものよう。
(実際のところ、タオは肉体年齢・精神年齢はともかくとして、稼働している年数としては2~3年程度と思われる)
疑似親子関係も築くのかと思ったら姉弟だった(UJ2017年7月号より)。
かつての弟と同じことを言い、弟と同じく左手に触れるタオに、ヒルダはこれから何を思うのか。
ところで、ZONEの連中はろくでもないし、地上人もジグラッドで何かをしようとしている上層部の人間もろくでもなさそうなので、タオとヒルダ、Ⅵとナナちゃんは本人らの意思は別として第三勢力になっていきそうな気がします。
彼らが行き着くのは、地上人とエーテル人が手を取り、それこそ境界を越えた世界ではないかな。
そこで二人は地上人とエーテル人のペアになるのではないか? というのが最近の私の妄想でした。なので、アダムとイヴです。壮大だな。
でも、タオはともかくとして、ヒルダがタオに男女としての好意を抱くまでの過程が今のところ全く想像できない。
でも私は、頭いいし笑顔でエグい行為を平気で実行するのにアホっぽい男子も好きです。
つまりタオとヒルダには仲良くなって欲しいんです。道のりが長く激しく断崖絶壁のような気もするけど。

●おっぱいとは偉大な双丘である
あらゆる欲求が最初からないタオが興味を持ったのが性欲というのが皮肉利いて面白い。
さて、おっぱいです。おっぱいが偉大だというのは全人類共通の叡智であり、真理であり、母の胸に抱かれず育った第二世代もおっぱいに回帰するのは当然のこと。
今のところのおっぱい担当は二人。
実世界代表はヒルダ、電脳世界代表はストラ。
さて、タオくんは作中何度かおっぱいに触る場面がありますが、おっぱいを通して実世界に触れ、理解を深めているようです。


 ヒルダとの出会い。ガイストの右腕で触れる。
   おっぱいに触れると地上人は不可解な表情をすることを知る。
  (恐らく触覚はないと思われる)
 ② あらかじめ知識を得た上でストラのおっぱいを掴む。ストラはノーリアクション。
  (エーテル人にとって性衝動は意味が無いことの再確認?)
 ③ 肉体を得て初めてヒルダのおっぱいに触れる。

     (ここで初めて触覚を得て、おっぱいは温かく柔らかく重いものであると知る)


多分次はおっぱいに触れる意図について学ぶか、おっぱいに触れたくなる衝動を理解するか。
タオがおっぱいに触れて何かを思う=成長のバロメーターの構図ですね。
変態かと言われれば変態なんでしょうけど、これもエーテル人だから仕方ないですね、だって知らなかったんだもの。
ところでおっぱいに触れられたり真っ裸のタオを見たりでよく赤面するヒルダさん結構ウブで可愛いです。


●他雑感
他、気になったことなど。

・第二世代の女の子、ストラ。たぶんエーテル人としてのステレオタイプ。
 おっぱいを掴まれても動じない剛の者。
 地球の自然環境をあらゆる惑星に振りまきたいという彼女の夢は危険思想の一歩手前のような気もする。多様性の否定と善意(?)の押しつけ的な。あらゆるストレスから解放されているはずのエーテル人の心が決して寛容ではないと実感させてくれる。でもキャラとしては嫌いじゃないです。負けず嫌いの真面目っ子が初めて敗北を覚えて、これからどんな表情を見せてくれるのか注目。ヒルダの尻を追っかけるタオを呆れた目で見ていた彼女にも執着するものができました。こっちはおっさん×少女になるのか、それともただの殺し合いの関係で終わるかな?
 任務での標準衣装っぽいピッチリスーツが目に毒です。
 ZONE内だから当時のタオは何も思わなかっただろうけど、あんな風に大胆に乗っかられた経験に感触も何も感じなかったことをそのうちタオは後悔するであろうよ。

・第二世代?の男の子、サクマ。本人曰く完全な第二世代ではなく、タオとストラの護衛役。
 今のところあまり活躍していないが、そもそも本人にサボり癖があるためか。
 完全な第二世代ではない、ということは、地上で生まれたてのところでZONEに来て、タオやストラと同じく第二世代としての教育を受けたということかな?
 人生の大半をデータ生命体として過ごしているのにサボり癖があったり、昼寝している描写があるのが異色。正直なところ、これからストラよりキーパーソンになりそうな予感がある。あえて描写されていないようにも見えるし……。

・ZONEからの脱走者、。正直最新話まででも彼の意図については掴みかねる。
 ZONEが堕ちてもいいけど、それだとやや困ることがある。だけどZONEからは脱走している、というところから、目指しているのは共存か、それとも別の何かか。

・難民の子のナナちゃんには流石に何もないとは思う。
 ただナナ=Ⅶじゃないだろうなと穿ってはおきます。
 これまで委員会の出てきたシーンでⅥとⅦの棺は映っていないので、まさかね、まさかね……。やめてくれ幼女まで疑いたくない。
 もしZONE側の何かだったら真っ先にⅥが気づくはずなので、この線はやっぱりないね。

・ついでにヒルダの相棒のデッカい猫、メイスの仕草がいちいち可愛いです。数少ない癒やし要素。ドローンをおもちゃにして遊んでるのかわいい。子猫みたい。


また思いついたことがあれば追記しますが、今回はこんなところで終わります。
2巻は恐らく年内には出ると思いますし、そこで完結もしないと思うけど、願わくば長く続きますように。
ただここのところの展開が急にも思えるので(最初の数話がかなりゆっくりな進行だったからそう見えるのかも)、その急な流れのまま終わらないだろうな? とやや不安です。
大丈夫月刊連載はそんなに早く終わらない。
ただ、最新号でいきなりジグラットに潜入に行ったのでびっくり。
来月はヒルダ対隊長戦になりそうだけど、隊長は相当な実力者のようなので、どう切り抜けるのか楽しみ。何かを聞きつけたタオが乱入して済し崩し的な離反になるとかだろうか。
2巻の出た頃にまた感想記事を書くかと思います。
次の表紙はヒルダかな。